タイ文字講座 番外編1 デザインフォント
blog No.025 投稿日:2022.2.11
この記事の内容
前回でタイ文字講座全12回を終えて、ほっとしていたら半年以上も更新できず、申し訳ありませんでした。
今回は、タイ文字を学ぶと必ず行き当たる問題ーータイ文字のデザインフォントについてまとめてみました。
・タイはアメリカがそんなに好きなのか?
・初心者泣かせのデザインフォント
・デザインフォントが読めないと困ってしまう
・デザインフォント克服の道
・デザインフォントいろいろ(part1)
・デザインフォントいろいろ(part2)他の文字からインスパイア
・参考サイト
・過去の関連記事
・今日のことわざ
番外編1 デザインフォント
タイはアメリカがそんなに好きなのか?
https://www.breeze.co.th/washing/powder.html から引用しました
……と最初にタイを訪れたころ思ったものです。この文字をあしらった看板を、バンコクのあちこちで見かけました。まだタイ文字なんて全く読めないころです。どうしても、アルファベットの
「usa」
と読めてしまいます。
私が初めてタイに行ったのが、1982年。ベトナム戦争に敗れた米軍はタイから撤退したものの、タイは社会主義化したインドシナ諸国に対峙する資本主義陣営の最前線に位置していました。そんな国際情勢の中、何かの広告(絵がなくて何の広告かわからなかった気がします)にも「usa」と書くとは、やっぱりタイにとってアメリカは特別な存在なのかなあ、などと思っていました。
タネ明かしをすれば、これはタイ文字です。イギリスの会社ユニリーバ Unilever 製の洗濯石けんの商品名 breeze のロゴです。普通のフォントならば、
บรีส
と書いて、[brìit/ ブリート] と読みます。このロゴの作者が、アメリカという国家ブランドを利用してこの洗濯石けんを売ろうとしたわけではないでしょうが、多少なりとも「usa」というアルファベットを意識したのではと思ってしまいます。
初心者泣かせのデザインフォント
ここで白状します。実は、私がこのロゴをすんなりタイ文字として読めるようになったのは、割と最近のことです。このようなデザインフォントは、タイ文字を覚えたばかりの初心者の前に、大きな壁となって立ちはだかります。
次の4つのフォントはいずれも、บรีส (breeze) とタイ文字の最初の3文字を表しています。
一番上の「Tahoma」は、Windows標準装備のフォントなので、このブログのタイ文字も、他のサイトのタイ文字も、このフォントで見ている方が多いと思います。ごく「普通の」の一般的な字体で、読みやすいですね。
これ以外のフォントは、タイ文字の特徴である書き出しの○(タイ語で หัว [hŭa/フア]〈「頭」の意味〉、ก と ธ にはありません)を省いて、デザイン性を高めています。2番目の「KodchiangUPC」は、書き出しの○の名残があるのですが、下の2つは、極力(他の文字と判別できる程度までに)なくしてしまいました。
似た文字を、同じ4つのフォントで並べてみました。
もともとタイ文字には似た文字が多いのですが、デザイン化されたフォントはさらに判別するのが難しくなります。とくに3つ目の「Ekkamai Standard」ときたら・・・。
DRDECOフォントは、https://www.f0nt.com/release/drdeco/からダウンロードしました。詳細はこちら
デザインフォントが読めないと困ってしまう
デザインフォントは何もタイ文字に限らず、他言語の文字にもあります。判読が難しいものもあって、例えば漢字の草書体はなかなか読めません。ただし、タイ文字のデザインフォントは、ごく日常的に使われることが特徴になっています。日本で草書体の看板はかなり特殊な場面でしか見かけません(ネイティブにも読めないのですから看板の用をなしません)が、タイでは街を歩けば次々と目に飛び込んできます。例えば・・・
一番上の部分は、
ชีวิตไม่หยุด แม้เปียกน้ำ
[chiiwít mâi yùt mɛ́ɛ pìak náam / チーウィットマイユット メェピアックナーム]
「水に濡れても、生活は止まらない」
と書いてあります。
この、「Ekkamai Standard」に類似したフォントは非常によく見かけます。先進的で洗練されたイメージなのでしょう、新商品の広告をはじめ、さまざまな場面で使われています。
デザインフォント克服の道
そもそもタイ語ネイティブの人は、このデザインフォントをスラスラ読めるのでしょうか。聞いてみると、当たり前のような顔で「読める」とのこと。どうしてでしょうか。
実は私たちは、文字をスラスラ読む時に一文字一文字読んでいません。前後の文字・単語や文意などから、「こういう文字が書いてあるだろう」とある程度予想しながら読んでいるはずです。これは、日本語でもタイ語でも同じです。
先ほどの Samsung のスマホの広告で言えば、น บ ม の文字自体の区別はややこしくても、ไม่ が ไน่ に見えたり、น้ำ が ม้ำ に見えたりはしないのです。
タイ文字を覚えたばかりの初心者は、そんな芸当はできませんので、一文字一文字読み解いていく・・・と、น と ม の区別で迷うわけです。
ということでデザインフォント克服の方法。タイ語の単語や文章(もちろん、「普通の」フォントで書かれたもの)に多く触れて、ある程度のレベルになれば、自然とデザインフォントも「読める」ようになってくるはずです。あまりにも当たり前すぎる結論で申しわけありません。でも、私も最初のうちは全く太刀打ちできませんでしたが、気がつかないうちに読めるようになっていました。
デザインフォントいろいろ(part1)
街を歩けばいろいろなフォントに出会います。デザインフォントがたとえ読めなくても、どんな場面でどんなフォントが使われているかに注目してみるのも楽しいですよ。
ド迫力!
「海軍将校また醜聞 カメラを隠しトイレを盗み撮り」
https://www.thairath.co.th/newspaper から引用しました
新聞の見出しに使われるフォントです。ドキッとするくらいの迫力で目に飛び込んできます。記事に注目してもらいたい、という新聞社の意気込みが伝わります。
ご挨拶申し上げます
これらのフォントは、https://www.f0nt.com/release/13-free-fonts-from-sipa/ からダウンロードしました。詳細はこちら
手書き風ですが、ちょっと気取ったフォントです。上の方が堅い感じがします。いずれも挨拶状や招待状、告知文などいずれも改まった場面で見かけます。
小学生の女の子が書きました
このフォントは、https://www.f0nt.com/release/sanamdeklen-chaya/ からダウンロードしました。詳細はこちら
小さな女の子がサインペンで書いたような、かわいい感じのフォントです。フォント名も「sanamdeklen (遊園地)」と言います。子供向けの商品の広告や案内などで見かけます。
デザインフォントいろいろ(part2)他の文字からインスパイア
レトロ調
波打った字画、書き出しの○(หัว [hŭa])の省略で、少し読みにくいですね。このフォントはスコータイ文字をイメージしたものだと思います。チャオプラヤー川流域に南下してきたタイ人が、13世紀に建てたのがスコータイ朝です。その王ラームカムヘーンがつくらせた石碑には、クメール文字を元にしたスコータイ文字が刻まれ、これが今のタイ文字の原型だと言われます。そのような理由から、このフォントは、歴史的な箔をつけたいような場面でよく見かけます。
(右)スコータイ文字(碑文の部分拡大)
から引用しました(ウィキメディア・コモンズ経由)
北タイ風
http://www.lamphun.go.th/th/news-governor/435/ไทยไปด้วยกัน から引用しました
独特の丸っこい字体は、おそらくラーンナータイ文字をイメージしたものでしょう。ラーンナータイ文字とは、チエンマイを中心とするタイ北部(ラーンナータイ)で使われてきた文字で、このフォントもタイ北部でしばしば目にします。
ちなみに、タイ北部では「本物のラーンナータイ文字」を見かけることができます。寺院のネームプレートには、タイ文字とラーンナータイ文字がよく併記してあります。ラーンナータイ文字はタイ文字と似てはいますが、私には読めません。
漢字風
「腕揺らし1日30分 中国人は千年以上にわたって、丈夫な体作りに利用してきた」
一瞬漢字かなと思わせる、毛筆で書いたようなフォント。でもこれくらいなら、タイ文字として十分読めますね。もちろん、中国に関係する場面でよく使われ、中華料理店の看板でもこのフォントを目にします。
右下の大きな文字は映画の題名「フライングダガーズ」
激しい毛筆調のフォントですね。ฟลายยิ้งแด็กเกอร์ส [flaai ʔíŋ dɛ̀k-kə̀ət/フラーイインデッカート] という題名です。ちなみに2004年公開のこの映画、日本では「ラヴァーズ」という題名でした。題名の上には、「劉德華(アンディ・ラウ)ー章子怡(チャン・ツィイー)-金城武 アジアの黄金三大スター、初集結」とあります。看板の3人の俳優の名前です。なお、金城武は中国語読みの จิงเฉิงอู่ [ciŋ chə̆əŋ ʔùu /チンチョーンウー] と書いてあります。
韓国風
https://www.chillpainai.com/scoop/11587/ から引用しました
タイでも若者を中心に、韓国のコンテンツは大人気です。K-pop、コスメ、ドラマ、グルメ・・・。そんな場面でよく見かけます。ハングル文字をイメージしたデザインで、一見して韓国を連想させる、優れたフォントだと思います。タイ文字としても読みやすいですね。
参考サイト
ฟอนต์.คอม (font.com) https://www.f0nt.com/(新しい画面が開きます)
タイ文字のさまざまなフォントがダウンロードできます。zip ファイルを解凍し、インストールすれば、パソコンやスマホ上で使えるようになります。ただし、商用利用等には制限があるものもあります。利用条件はタイ語での説明ですので、ご注意ください。
今日のことわざ
เขียนเสือให้วัวกลัว
[khĭan sʉ̆a hâi ʔua klua / キエン スア ハイ ウア クルア]
日本語訳:虎を描いて牛を怖がらせる
今年、2022年は寅年です。去年は丑年でしたので、ちょうどいい言い回しがありました。ちなみにタイにも十二支があります。日本と多少違うところもあります(羊ではなく山羊。猪ではなく豚、北タイでは象)が、寅年は同じです。トラはタイ語では เสือ [sʉ̆a/スア]ですが、干支は ปีขาล [pii khăan/ピー カーン]といいます。
タイではつい最近まで、トラが身近な存在でした。もちろん、凶暴な肉食獣ですから、この言い回しのように恐ろしい存在だったのでしょう。blog003では、
หนีเสือปะจระเข้ [nĭi sʉ̆a pàʔ cɔɔrakhêe /二― スア パッ チョーラケー]
「虎から逃げてワニに出会う」「前門の虎、後門の狼」
を紹介しました。しばらく、トラにちなんだことわざや言い回しを紹介していきます。
[ 参考文献 ] 冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』養徳社、岩城雄次郎・斉藤スワニー『タイ語ことわざ用法辞典』大学書林、1998年