HOME 前の記事 次の記事

タイ語の発音3 母音のはなし
blog No.004  投稿日:2020.05.08/追加:2020.05.24

タイ語を楽しく、しかも本格的に学習するサイトです。タイ語ってどんなことば? 難しいの? 「コツ」は何?……こんな疑問をお持ちの方に、発音の要領、タイ文字の読み書き、簡単な会話や文法などわかりやすく紹介しています。タイ語に関する様々な雑学をはじめ、タイの歴史や文化に関する幅広い情報、タイ旅行のノウハウや経験談、タイのニュースなど、タイやタイ語への理解が深まる内容も盛りだくさんです。

この記事の内容

日本語ネイティブにとって難しいタイ語の発音、2回目は母音(アイウエオ)です。タイ語には基本的な母音がなんと9個もあります。しかも短い母音と長い母音、アとアーなども区別します。

「トムヤムクン」の「クン」が難しい
9つの母音
日本語ネイティブが気をつけるべき母音
チャルーンクルン通り? チャローンクルン通り? はたまたチャロエンクルン通り?
過去の関連記事
今日のことわざ
※以下の文中にはタイ文字が使われていますが、読めなくても全く問題なく理解できます。

タイ語の発音3 母音のはなし

「トムヤムクン」の「クン」が難しい

 前回のblog003では、声調の勉強をしました。ต้มยำกุ้ง [tôm yam kûŋ]は声調をともなって、カタカナの「トムヤムクン」とは全く違う発音になります。
 次の難関が กุ้ง [ kûŋ/クン]「海老」の発音です。簡単に「クン」とカタカナ読みする人が多いのですが、それでは通じにくいと思います。実は、日本語ネイティブにとっては、かなり難しい発音になります。「クン」の母音 [u] が日本語にない音(通常使わない音)だからです。発音記号のローマ字に惑わされないよう、注意したいものです。

shrimp shrimp

タイ語で クン(えび)は難しい

9つの母音

 母音とは、声帯を震わせて出す音のことで、日本語の基本的な母音はアイウエオの5つです。これに対して、タイ語には基本的な母音だけで9個もあります。さらにそれぞれ短い母音と長い母音があって、例えばアとアーなどは別の音として区別されます。これに加えて、二重母音などもあり、バラエティー豊かな母音の響きが、タイ語の特徴になります。
 次の表は、基本的な母音を短母音と長母音に分けてまとめたものです。表の下の(注)もお読みください。
 日本語ネイティブにとっては表の黄色の部分、つまり uʔ / uu , ɛʔ / ɛɛ , ɔʔ / ɔɔ ,əʔ / əə の発音が難しいはずです。カタカナを書いてはおきましたが、あくまで便宜的なものです。カタカナをそのまま読んでも通じないと思ってください。何回も言ったり聞いたりするしかありません。なお、タイ文字表記については、別の機会に紹介します。

   
タイ語の母音
短母音(基本的な母音)長母音
発音
記号
カタカナタイ文字
(母音符号)
特徴発音
記号
カタカナタイ文字
(母音符号)
-ะ,-ั日本語の「ア」に近い。大きめに口を開けるaaアー-า
-ิ日本語の「イ」に近い。口を横に引っ張っる感じiiイー-ี
ʉʔ-ึ日本語の「ウ」に近い。唇を平たくし、突き出さないʉʉウー-ื
*ウ-ุ日本語の「ウ」より唇を突き出して「ウ」uu*ウー-ู
เ-ะ日本語の「エ」に近いeeエーเ-
ɛʔ*エแ-ะ「エ」より口を開け、口の中をやや広げる感じで「エ」ɛɛ*エーแ-
โ-ะ日本語の「オ」に近いooオーโ-
ɔʔ*オเ-าะ「オ」より口を開け、口の中をやや広げる感じで「オ」ɔɔ*オー-อ
əʔ*ウorアเ-อะ「オ」の口の構えから少しだけ口を開け、「オ」と「エ」の中間の音を出すəə*ウー
orアー
เ-ิอ

ブラウザによっては、タイ文字が表現できていないかもしれません。この表のタイ文字は、母音を表す「符号」であって、このように単独で使うことはないからです。その場合はPDFファイルをご覧ください。 この表をダウンロード(PDF,111KB)

(注1)発音記号の ʔ は、母音を短く発音した後、喉の奥を絞るようにして止める音(声門閉鎖音)を表す記号です。慣れないと難しいので、最初は長母音で練習した方がよいでしょう。
(注2)発音記号はどの学習書もほぼ共通ですが、 ʉ を ɯ と表記するものもあります。ただしアルファベットの綴りも含めて外国人用なので、タイでは通用しない可能性が高いです。
(注3)カタカナの*は、便宜的なもので正確な発音を表していません。タイ語の母音を表すには、日本語のカタカナでは文字が足らないのがお分かりだと思います。

 この表以外にも、二重母音や特殊な母音がありますが、これらの基礎的な母音を組み合わせれば大丈夫です。

日本語ネイティブが気をつけるべき母音

 こんなに複雑なんだ、とちょっと引いてしまうかもしれません。しかしタイ語ネイティブの人は、少しも複雑とは思っていません。生まれてからずっとこの母音を聞いて育ったわけですから、これが当たり前になっています。母語とはそういうものです。もちろん逆に、タイ語ネイティブが苦手な日本語の発音もあります。
 外国語を学ぶということは、自分の母語の特徴を見つめなおすことでもあると思っています。日本語は比較的単純な母音からできているという特徴をふまえて、外国語に取り組むのが近道ではないでしょうか。

river river

川は「メーナーム」แม่น้ำ [mɛ̂ɛ náam]。ɛɛの発音に注意

 日本語ネイティブの人がとくに気をつける母音についてまとめておきます。

(1) ʉʔ / ʉʉ と uʔ / uu の区別
 ʉʔ / ʉʉ は口を横に開いて発音する「ウ」で、日本語の「ウ」とほぼ同じです。注意してほしいのが uʔ / uu の発音で、唇を突き出して「ウ」と言います。
 (例)ถึง [tʉ̆ŋ](到着する) ⇔ ถุง [tŭŋ](袋)
 両方ともカタカナでは「トゥン」としか書けませんが、全く別の単語になります。

(2) eʔ / ee と ɛʔ / ɛɛ の区別
 eʔ / ee は日本語の「エ」でOKです。ɛʔ / ɛɛ は口を開いて言う「エ」で、「ア」に近い「エ」、英語の cat, apple の a の発音に近いともいえます。
 (例)เพศ [phêet](性、性別) ⇔ แพทย์ [phɛ̂ɛt](医者)
 カタカナ表記だと、両方とも「ペート」で区別できませんが、もちろん別の単語です。なお、ɛ の音をアルファベットでは、 ae と書くことが多いです。
 (例)แม่น้ำ [mɛ̂ɛ náam] → maenam(メーナーム、川という意味)
 これをカタカナで「アエ」と表記してある本などを時々見ます。タイ語の発音体系を知らない人が、アルファベットをそのままカタカナに置き換えたのでしょうが、決してそんな風には発音しません。

(3) oʔ / oo と ɔʔ / ɔɔ の区別
 oʔ / oo は日本語の「オ」に近いですが、ɔʔ / ɔɔ と区別するため、口はすぼめ気味で「オ」と発音します。ɔʔ / ɔɔ は逆に、口を開けて言う「オ」、「ア」に近い「オ」です。
 (例)โทษ [thôot](罰、罰する)  ⇔ ทอด [thɔ̂ɔt](油で揚げる)
 カタカナでは両方「トート」としか書けませんが、全く別の単語です。

(4) əʔ / əə の発音
 私が思うに、この母音が最難関ではないでしょうか。「オ」と「エ」の中間の音で、英語の number の er の発音に近いです。( r の巻き舌はいりません。)とにかくカタカナでは表現できない音です。

チャルーンクルン通り? チャローンクルン通り? はたまたチャロエンクルン通り?

 日本語ネイティブにとって、おそらく最難関となる母音 əʔ / əə 。でも、タイ語で頻繁に使われる母音です。例えば、バンコクの有名な道路の名前に、こんなのがあります。
 เจริญกรุง [carəən kruŋ]
 バンコクのチャイナタウンから、チャオプラヤー川に沿って下流のバーンラック方面に延びる、歴史ある道路です。19世紀なかばのラーマ4世王の時代、ここに住んだヨーロッパ人は自分たちの国のように馬車で移動したいと王に所望した結果、タイで初めて馬車用に舗装した道路ができました。当時のバンコクは、川や運河を利用した水上交通が一般的だったのです。ヨーロッパ人が「New Road」とよんだこの道路を、ラーマ4世王は「都の繁栄」を意味する เจริญกรุง [carəən kruŋ] と命名しました。現在も古い商店や寺院、教会が並ぶこの通りを散歩するのは楽しいものです。
 ところが日本語で書き表すのが大変で、皆さん苦労しています。比較的多いのが「チャルーンクルン」と「チャローンクルン」(ーがないバージョンもあります)。でも両方ともちょっと違います。ちょうどこの中間の音なのです。この母音を英語では、oe と書くことがあるので、それをそのままカタカナで「チャロエンクルン」とあるのも見かけますが、こう読んでもおそらく通じません。

 最初に戻って、「トムヤムクン」の「クン」กุ้ง [kûŋ] の発音をしてみます。
 กุ้ง [kûŋ] ですので、u の音、つまり日本語の「ウ」ではなくて、唇を突き出して「ウ」と言いましょう。声調は下声です。高いところから下げる音です。日本語で「鈴木クン」 と言うときの「クン」より、かなり口の中にこもった音になります。

過去の関連記事

タイ語の発音1 発音に始まり、発音に終わる
タイ語の発音2 声調のはなし

今日のことわざ

ปิดทองหลังพระ

[pìt thɔɔŋ lăŋ phŕa/ ピット トーン ラン プラ]
日本語訳:仏像の背に金箔を貼る

Buddha image Buddha image

 タイの仏教寺院では、たいてい入口に「お参りセット」が置いてあるので、お布施(1セット20バーツなどと金額が書かれていることもあります)を入れて受け取ります。セットの中身は、花(蓮のつぼみが多い)と蝋燭1本、線香3本、それに小さなわら半紙の包みが3つほど付いています(数には差がありますが、縁起のいい奇数のはずです)。花と火をつけた蝋燭と線香をお供えしたあと、わら半紙の包みをそっと開けてください。指の爪ほどの小さな四角い金箔(ทอง[thɔɔŋ])が入っていますので、それをわら半紙ごと仏像(พระ[phŕa])に押し当てれば、金箔だけはがれて仏像に貼る(ปิด[pìt])ことができます。
 仏像のどこに貼ってもいいのですが、多くの人は顔、胸、腕など目立つ正面に貼ります。したがってこのことわざは、目立たない背中(หลัง[lăŋ])に金箔を貼るように、「人知れず善いことをする」という意味になります。

[ 参考文献 ] 冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』養徳社、1990年; 河部利夫『基礎タイ語』大学書林、1982年; 岡慈訓『タイ語発音教室』星雲社、2008年;

 

I AM...

self portrait

1963年、愛知県生まれ。男性
1982年、初めてタイを旅行。以後、50数回(短期のトランジットを除く)タイを訪問
2011年度通訳案内士試験(タイ語)合格【観光庁・国家資格】
2012年、総合旅行業務取扱管理者試験合格【観光庁・国家資格】