チエンマイのソンクラーンに行ってきました(1)
blog No.031 投稿日:2024.08.01
この記事の内容
ソンクラーン สงกรานต์ [sŏŋkraan] ってご存じですか? タイの伝統的な新年を祝う行事のことで、三が日に当たる4月13~15日とその前後数日間は、官公庁、企業等が休みになり(学校は夏休み中)、多くの人が故郷に帰って家族とともに新年をお祝いします。祝福の意味を込めて、お互いに水を掛け合うという風習から「水かけ祭り」などとよばれることもあります。今回(2024年)、初めてソンクラーンを体験してきましたので、その一端をご紹介したいと思います。
・ソンクラーンとは?
・下調べと準備
チエンマイを選んだ理由
下調べ
旅行計画
・ソンクラーン前日(4月12日)
チエンマイの誕生日
ワット=チエンマン
聖水の行列
これ以下は、次のページ blog032 になります
・シヒン仏のお出まし
・仏像のパレード
・そのほかの行事
・チエンマイのソンクラーンを楽しむヒント
チエンマイのソンクラーンに行ってきました(1)
ソンクラーンとは?
ソンクラーンとは、インドのサンスクリット語で「移動する」「入る」という意味で、太陽がおひつじ座に入る時期(インドの暦法で1年の始まり)を祝う年中行事です。タイでは、仏暦2484年(西暦1941年)に1月1日を新年とするまで、ソンクラーンのある4月が新年の始まりでした。現在では4月13~15日がソンクラーンと定められています。なお、タイと同じくインドの暦法にならった、ビルマ・ラオス・カンボジアなどでも同様にお祝いされます。
ソンクラーンには、年長者や師匠など尊敬する人の手に、あるいは仏像に、花などで香り付けした水を少量かけて祝福するという習慣があります。水には悪いものを洗い流す力があるという考えは、日本と似ていて興味深いですね。また、ソンクラーンが行われる4月は、乾季の終わりにあたり1年で最も暑い時期でもあることから、暑気払いの意味もあると考えられます。
近年では、その習慣が転じて、街で人々が水をかけあって楽しむ「水かけ祭り」として知られるようになりました。現在ではタイの各地で、水鉄砲やホース、バケツを持って水をかけ合い、英語で Water Fighting Festival と表現されることもあります。2023年にはタイが誇る伝統的なお祭りとして、国連教育科学文化機関(ユネスコ)により無形文化遺産に登録されました。
参考:タイ国政府観光庁HP(日本語版)https://www.thailandtravel.or.jp/
下調べと準備
チエンマイを選んだ理由
ソンクラーンは、バンコクをはじめタイの各地で行われますが、今回私は北部タイのチエンマイ เชียงใหม่ [chiaŋ mài](発音については、下の注をご覧ください) を選びました。その理由は、
- ソンクラーンのとき、チエンマイの守護仏シヒン仏をはじめとする重要な仏像のパレードがあること
- タイ北部のラーンナー地方独自の文化の中心地で、ソンクラーンでも他にはない風習があること
- 何度も行ったことがあって、旅行や移動に困らないこと
などです。
注)เชียง [chiaŋ] のアクセントは i にある(複合母音は必ず最初の母音にアクセントがある)ので、あとに [-ŋ][-n][-m] などの子音が来ると、[-ia] の部分は [-ie] と発音される。つまり、文字通りなら「チアンマイ」だが実際には「チエンマイ」と発音される。なお、日本語表記でよく見るが「チェンマイ」ではない。この発音についてはこちら(blog014)も参照のこと。
下調べ
様々な行事が行われるソンクラーン。いつ、どこで、どんな行事が行われるか、ネット上でいろいろ検索した結果、次の2か所の公的機関が発表しているプログラムを探し当てることができました。
1)タイ国政府観光庁チエンマイ事務所(TAT Chiangmai)ททท.สำนักงานเชียงใหม่ [thɔɔ thɔɔ thɔɔ săm nák ŋaan chiaŋ mài /トートートー サムナックガーン チエンマイ] のFacebook(タイ語)
https://www.facebook.com/tatchiangmai
※ททท [thɔɔ thɔɔ thɔɔ] は、การท่องเที่ยวแห่งประเทศไทย [kaan thɔ̂ŋ thîau hɛ̀ŋ phráthêet thai /カーン トンティアウ ヘェン プラテートタイ] 「タイ国政府観光庁」の略語
今年は、2024年3月21日の投稿にプログラムが掲載されていました。(タイ語のみ)
該当ページはこちら
2)チエンマイ市役所(เทศบาลนครเชียงใหม่ [thêesabaan nakhɔɔn chiaŋ mài /テーサバーン ナコーン チエンマイ])HP(タイ語・英語)
https://www.cmcity.go.th/
4月5日時点のプログラムが、タイ語・英語・中国語で掲載されました。
該当ページはこちら
どちらも結構直前の発表だったり、2つの資料で時間が違うところもありますが、この辺りはタイらしいところでしょうか。なお、これらの資料を見ていると、チエンマイのソンクラーンは、ป๋าเวณีปี๋ใหม่เมืองเจียงใหม่ [pă aweenii pĭ imài mʉaŋ ciaŋmài/ パーウェーニー ピーマイ ムアン チエンマイ] というタイトルがついています。ここに使われていることばは、標準タイ語でなく、タイ北部(ラーンナー地方)のことば คำเมือง [kham mʉaŋ/カム ムアン] です。かつてラーンナー王国の都として栄えてきたチエンマイの、自分たちの文化を継承しようという自負心の一端を見ることができます。
旅行計画
プログラムによれば、メインの仏像パレードなど、おもな行事は4月13日に行われますが、前日の12日にも興味深い行事が予定されているので、その前日の11日にチエンマイに入るように計画しました。4月10日に中部国際空港からバンコクへ飛び、新しいアピワット中央駅 สถานีกลางกรุงเทพอภิวัฒน์ [sathă anii klaaŋ kruŋthêep aphíwát /サターニー クラーン クルンテープ アピワット] に移動して、20時05分発の特急13列車(寝台車)でチエンマイに向かいます。11日の朝(時刻表では08時40分着ですが、たいてい1時間程度は遅れます)にはチエンマイに着きます。
その後、数日間ソンクラーンを満喫して、16日の中華航空でチエンマイから台北、中部空港へと帰ってくる日程を考えました。
チエンマイのソンクラーンは有名なので、内外の観光客が多く訪れます。ホテルを心配しましたが、予約サイトを見ると幸いなことにそれほど混んでいません。年末年始は混むのですが。様々な行事が行われるターペー門広場 ข่วงประตูท่าแพ[khùaŋ pratuu thâaphɛɛ /クアン プラトゥー ターペェー] から徒歩6、7分の宿を予約しました。
ソンクラーン前日(4月12日)
チエンマイの誕生日
上記のプログラムによると、ソンクラーン前日のこの日、午前7時~8時にチエンマイ旧市街(城壁と堀に囲まれている)中心にある三王の広場 ข่วงสามกษัตริย์ [khùaŋ săam kasàt /クアン サーム カサット] で、托鉢の儀式があるといいます。行ってみると托鉢はもう終わっていましたが、かわりに笛と太鼓の賑やかな音楽が聞こえてきます。色とりどりの衣装をつけた女性500人(説明のアナウンスによる)が広場一杯に広がって、爪踊り ฟ้อนเล็บ [fɔ́ɔn lép /フォーンレップ] を踊っていました。爪踊りとは、北タイで寺院への寄進の際などに演じられてきた芸能で、親指以外の8本の指に長い付け爪をつけて踊ります。ゆっくりだけどビートのあるリズム、その伴奏に乗って優雅に踊る女性たち・・・。すっかり見入ってしまいました。
まもなく、市長さんでしょうか、ピリッと決めた服に身を包んだ一団が捧げ物を持ち、踊りの隊列の中を三王の像の前に進み出て、供物を奉納します。広場にあった説明看板によると、西暦1296年のこの日、4月12日がチエンマイ建都の日だそうです。なるほど、チエンマイの生誕をお祝いする行事だったわけです。(詳しい説明は下にあります)
見ていると、踊っている女性の衣装は十数人単位でそれぞれ別々であることに気がつきました。年齢も小学生くらいの子から白髪の方までいろいろ。おそらく、村や地区ごとで有志の方たちが集まって練習し、衣装をそろえて、この晴れ舞台に出ているのでしょう。皆さん、とても楽しそうに踊っていました。こうやって伝統が受け継がれていくのですね。
参考:David K. Wyatt 「Thailand: A Short History」2nd edition, 2003
ワット=チエンマン
この日は、チエンマイ市内各地の寺院で、タムブン ทำบุญ [tham bun] ・タクバーツ ตักบาตร [tàk bàat]の儀式が行われるとのこと。タムブンとは「徳を積む」、タクバーツは「僧の鉢に寄進物を入れる」という意味で、つまり、寺院で僧に様々な物を寄進する行事ということです。三王の広場から近いワット=チエンマン วัดเชียงมั่น[wat chiaŋmân]に移動しました。
いつもは静かな境内ですが、今日は一日中様々な行事があるためか、結構賑わっています。ここでも笛とドラムの音が聞こえてきました。音楽に導かれて寺院の右手奥に進むと、メンラーイ王の座像の前の広場で、やはり踊りのパフォーマンスが行われていました。王像の前には花でつくられた飾り物や果物などの奉納品が並べられ、花びらが撒かれた赤い絨毯の上で、黄色い上着と赤い巻きスカートを着た女性8人が踊っていました。
このワット=チエンマンは、1296年にチエンマイを建てたマンラーイ王が自分の宮殿を寄進したもので、チエンマイ中心部で最も古い歴史を持つ寺院として知られています。チエンマイ建都と深く関わるこの寺院で、チエンマイ建都の記念日に、マンラーイ王に踊りを奉納しているのです。
このあと、鐘のリズムに合わせて鳥の羽飾りをつけて踊るキンカラーダンス※(下注)(鳥踊り)ฟ้อนนกกิงกะหร่า [fɔ́ɔn nók kiŋkàʔràa/ フォーン ノック キンカラー]が続きました。これは北タイからミャンマー西部のシャン州に住むタイヤイ ไทใหญ่ [thai yài] 族(「大タイ」という意味。シャン ฉาน [chă an/チャーン]ともいう)に伝わる踊りで、もともとはオークパンサー ออกพรรษา [ɔ̀ɔk phansăa]※(下注)の際に奉納されるものですが、今ではいろいろな祝賀行事でも披露されます。キンカラーに扮した4人の男性に、白い仮面を手にした女性4人が加わって踊りが続きます。仮面の踊りはミャンマーにもあるのですが、この辺りの踊りにはミャンマーの影響が強いといわれるタイヤイの文化がうかがい知れました。最後に、先ほどの8名の女性が赤い傘を持って登場し、ダンサー全員が舞台にそろいます。赤い傘を開くと、その中から赤と白の花びら(バラでしょうか)がワサワサと落ちてきました。それを女性たちが掬って空へ撒きます。華やかで優美な瞬間でした。
まもなくワット=チエンマンの礼拝堂で読経が始まり、外の木陰でしばらく聞いていました。この後も、僧への昼食寄進、読経など夕方までずっと行事が組まれていました。
・キンカラー……天国に住む、半鳥半人の動物で吉祥のしるしとされる。タイヤイの言い伝えによれば、仏陀が天国で雨安居を終えて(オークパンサー)地上に戻るときに現れて、優雅に踊って見せたという。タイ中部などではキンノーン กินนร [kinnɔɔn]、日本では「キンナラ(緊那羅)」とよばれる。
・オークパンサー……雨期の3か月間、寺院などにこもって修行することを、安居(あんご)または雨安居(うあんご)という。その終わり(毎年10月ころ)を祝う行事のこと。
聖水の行列
ワット=チエンマンからターペー門へ移動します。ターペー門広場では、ラープ ลาบ [lâap] 作りのコンテストの最中でした。ラープとは、タイの北部や東北部からラオスで好まれている、挽肉入りのサラダ料理です。昼食後はホテルへ帰り、隣のマッサージ屋で休憩しました。なにしろ、日中は40℃にもなろうという暑さです。
朝に爪踊りをやっていた三王の広場で、午後5時から聖水の行列が出発するというので、少し前から近くのカフェで涼みながら待っていました。4時半ころには行列の準備はできていましたが、予定通り5時に出発しました。笛、太鼓、シンバルのリズムが鳴り響く中、ミス&ミスターソンクラーン、役所関係の人たち、爪踊りのダンサーと続き、音楽隊のあとに、エンジ色の装束を着けた若い男性たちが聖水の入った9つの壺を乗せた縁台を担いで行進します。その後ろには、観光関係の諸団体の人たちがプラカードを持って、そろいの衣装を着て続きます。モン族の衣装を着た女性たちもいました。
聖水 น้ำทิพย์ [nám thíp/ ナムティップ]は、ソンクラーンのお祝いのため、チエンマイ県各地の霊験あらたかとされる水源9か所から汲まれて来るそうです。今年は4月4~9日に伝統的な儀式に従って汲まれ、4月10日にワット=プラタートドーイステープ วัดพระธาตุดอยสุเทพราชวรวิหาร [wát phráthâat dɔɔi sùthêep râacha wɔɔráwíhăan]で僧による読経を受けたあと、今日(12日)、隊列を組んで、多くの人に見守られながら三王の広場からワット=プラシン วัดพระสิงห์วรมหาวิหาร [wát phrásĭŋ wɔɔrámahăawíhăan]へ向かいます。
タイ国政府観光庁(TAT)チエンマイ事務所の Facebook によると、聖水はソンクラーン期間中に、寺院やショッピングモールなどで合計10,728本配布されたそうです(728という一見、中途半端な数は、今年がチエンマイ建都728年にあたるからだと思われます)。私は残念ながらもらいそびれましたが、Facebookの写真を見ても、1か所で小さな壺2、3個に水を汲むだけなので、実際にそんな量は用意できないはずです。たぶん、汲んだ水ではなく、聖水と一緒に読経を受けたということではないでしょうか。この辺りの説明は、上記 Facebook 等に情報がありませんでした。
聖水が着くころを見計らって、私もワット=プラシンに行きました。ミス&ミスターソンクラーン、役所関係の人たちに続いて、縁台を担いでいた若い男性9人がそれぞれ1個ずつ聖水の壺を手に持って、ワット=プラシンのラーイカム堂 วิหารลายคำ [wíhăan raaikham/ ウィハーン ラーイカム](チエンマイで最も信仰されているシヒン仏 พระพุทธสิหิงค์ [phráphúttha sìhĭŋ/ プラプッタ シヒン] が安置されている礼拝堂)に入って行きました。一般の人は堂内には入れませんが、上記 Facebook には僧侶が並ぶ写真がありましたので、おそらく読経のうえ、聖水がシヒン仏にかけられたのではと想像しています。