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旅ときどき単語5 駅名編(3)山と丘
blog No.030   投稿日:2023.3.4

タイ語を楽しく、しかも本格的に学習するサイトです。タイ語ってどんなことば? 難しいの? 「コツ」は何?……こんな疑問をお持ちの方に、発音の要領、タイ文字の読み書き、簡単な会話や文法などわかりやすく紹介しています。タイ語に関する雑学、タイの歴史や文化など、タイやタイ語への理解が深まる内容も盛りこみました。

この記事の内容

 楽しみながら語彙力をつけたい・・・。鉄道旅の気分を味わいながら、駅名をヒントに知っている単語を増やします。前回は、タイの暮らしと深いつながりがある「水」にまつわる駅名を見ました。3回目の今回は「山と丘」をテーマに、車窓から見える駅名標を読み解いて行きましょう。

タイ国鉄全664駅で多く使われている語
駅名の1割は「山」と「丘」
「山」に関する駅名
「丘」に関する駅名
東北線と南線に多い「山」と「丘」

旅ときどき単語4 駅名編(3)山と丘

タイ国鉄全664駅で多く使われている語

Khuntan station Khuntan station

北本線クンターン駅(標高578m)タイ国鉄最高地点にある駅

 タイの国鉄 การรถไฟแห่งประเทศไทย [kaan rót fai hɛ̀ŋ prathêet thai/カーンロットファイ ヘェン プラテートタイ] (略称:รฟท.)、英語名 State Railway of Thailand(略称:SRT)の全駅664の駅名を分析した結果、多く使われている語のトップ10は以下のようになりました。 

  1. goldmedalบ้าน [bâan/バーン]「家・村」124駅(18.7%)
  2. silvermedalหนอง [nɔ̆ɔŋ/ノーン]「沼」49駅(7.4%)
  3. bronzemedalคลอง [khlɔɔŋ/クローン]「運河」36駅(5.4%)
  4. ห้วย [hûai/フアイ]「谷川・渓流」29駅(4.4%)
  5. บาง [baaŋ/バーン]「水流、水辺の村」26駅(3.9%)
  6. เขา [khău/カーウ]「山」24駅(3.6%)
  7. ท่า [thâa/ター]「渡し場、港」20駅(3.0%)
  8. วัง [waŋ/ワン]「淵、水の深い所」15駅(2.3%)
    บุรี [burii/ブリー]「都市」15駅(2.3%)
    นา [naa/ナー]「田んぼ」15駅(2.3%)

※タイ国鉄の路線図および路線名については、blog028を参照。

駅名の1割は「山」と「丘」

 タイというと、川がゆったり流れる広大な平野をイメージします。一方で、เขา [khău/カーウ]「山」がつく駅名は第6位、24駅(3.6%)と、それほど多くはないのですが、類似の語を集めるとけっこうな数にのぼります。

    เขา [khău] 以外に、日本語に訳すと「山」になる語がつく駅は...
  • คีรี [khiirii/ キーリー] 2駅
    この語は、パーリ・サンスクリット語の giri [ギリ] が起源です。ネパールに「ダウラギリ」(白い山という意味)という有名な高山がありますね。
  • พนม [phánom/ パノム ] 1駅(この語は「丘」とも訳せます)
    これはクメール語(カンボディア語) phnom [プノム] の借用です。カンボディアの首都プノムペンは「ペンの丘」という意味です。
  • ผา [phăa/ パー]「岩山、崖」 4駅

    また、日本語で「丘」と訳せる語のつく駅は...
  • โคก [khôok/ コーク] 12駅 
  • ดอน [dɔɔn/ ドーン] 11駅
  • โนน [noon/ ノーン] 6駅
  • เนิน [nəən/ ヌーン] 5駅

 これらの「丘」を意味する語は、タイ王立学士院 ราชบัณฑิตยสถาน [râtchábandìttàyásàthăan/ラーチャバンディッタヤサターン] の辞書(仏暦2554年版、https://dictionary.orst.go.th)によると、次のようなニュアンスの違いがあるようです。
 เนิน [nəən] は「周辺部より少しずつ緩い坂になって高くなっている場所」との説明ですので、日本語の「丘」と符合します。โนน [noon] は เนิน [nəən] と同じです。これは私見ですが、この2語は、นูน [nuun/ ヌーン](形容詞)「突出した、はれ上がった、盛り上がった」という語と関係が深いと考えてよいと思います。
 โคก [khôok] は、タイ王立学士院の辞書では「เนิน [nəən] と似ているが、それより低い」とあるので、あえて訳出すれば、「小規模な丘、低い丘」となるでしょうか。語源は、クメール語の「水のない場所」という語だそうです。
 ดอน [dɔɔn] は、タイ王立学士院の辞書によると「洪水が届かない地帯」と説明されています。冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』には「低湿地の反対」とあります。またこの語は、イーサーン(東北部)では「川中島」を意味するそうです。そういえば、ラオス南部(ラーウ(ラーオ)語はイーサーンの言語とほぼ同じ)のメコン川には、ドーンデット(Don Det)、ドーンコーン(Don Khon)(滝やフランスが残した鉄道跡など見所が多い)など「シーパンドーン」「4000個の川中島」(タイ語で書けば、สี่พันดอน[sìi phan dɔɔn])とよばれる川中島群があって、一度遊びに行ったことがありました。このことを考え合わせると、ดอน [dɔɔn] は「丘」まで行かず、「高み」と訳した方がいいかもしれません。
 以上のように、「山」「丘」にあたる語がつく駅数は、全部で65駅(全664駅中9.8%)と約1割にものぼりました。

SiPhandon SiPhandon

ラオス南部のメコン川。無数の小島が浮かび、「シーパンドーン」(4000個の川中島)と称される

「山」に関する駅名

เขา [khău] がつく駅名

    まず、とってもわかりやすい駅名から。
  • เขาทอง [khău thɔɔŋ/ カーウトーン]「黄金山」(北本線・ナコーンサワン県)
  • เขาสูง [khău sŭuŋ/ カーウスーン]「高山」(東北バイパス線・サラブリー県)
    ทอง [thɔɔŋ] は「金、黄金」、สูง [sŭuŋ] は「高さが高い」という形容詞です。
    次の2つもわかりやすいですね。
  • เขาสวนทุเรียน [khău sŭan thúrian/ カーウ スアントゥリアン]「ドリアン農園山」(南本線・チュムポーン県)
  • เขาปูน [khău puun/ カーウプーン]「石灰山」(南ナムトク線・カーンチャナブリー県)
    สวนทุเรียน [sŭan] は「庭、農園」、ทุเรียน [thúrian] は果物のドリアンのことです。2つ目の ปูน [puun] は「石灰」を意味します。
    動物名が入った「山」もあります。
  • เขาสวนกวาง [khău sŭan kwaaŋ/ カーウスアンクワーン]「鹿園山」(東北ノーンカーイ線・コーンケン県)
  • เขาเต่า [khău tàu/ カーウタウ]「亀山」(南本線・プラチュアプキーリーカン県)
  • เขาหัวควาย [khău hŭa khwaai/ カーウフアクワーイ]「水牛頭山」(南本線・スラートターニー県)
    กวาง [kwaaŋ]「鹿」、เต่า [tàu]「亀」、そしてควาย [khwaai] は「牛」ではなく「水牛」です。(牛と水牛の話は、blog021にあります。)หัว [hŭa] は「頭」を意味します。
    次は仏教に関する駅名です。
  • เขาพระบาท [khău phrá bàat/ カーウプラバート]「仏足石山」(東バーンプルータールアン線・チョンブリー県)
    พระบาท [phrá bàat] は พระพุทธบาท [phrá phut́thá-bàat/ プラプッタバート] 「仏足石」、つまり仏陀の足跡をかたどった石のことで、寺院に祀られ信仰の対象になっています。

พนม [phánom]、คีรี [khiirii] がつく駅名

  • เขาพนมแบก [khău phánom bɛ̀ɛk/ カーウパノムベェーク]「担ぎ丘山」(南本線・スラートターニー県)
    พนม [phánom]「丘」がつく駅名はここだけですが、県名としては、メコン川を挟んでラオスと接する位置に นครพนม [nákhɔɔn phánom/ ナコーンパノム] があります。แบก [bɛ̀ɛk] は「荷物などを肩や背中で担(かつ)ぐ」という意味です。
  • ประจวบคีรีขันธ์ [pràcuàp khiiriikăn/ プラチュアプ キーリーカン]「山と出会う所」(南本線・プラチュアプキーリーカン県)
    長細いマレー半島は、中央部の背骨にあたる山脈がタイとミャンマーとの国境になっています。山脈が東側に張り出し、タイ側の土地が最も狭くなる(何と12km)場所に位置する都市名、およびその都市を県庁所在地とする県名です。県内には有名な海浜保養地 หัวทิน [hŭahĭn/ ホアヒン] がありますが、実は県都にもタイでトップ5に入る水質のビーチがあって、おすすめです。

ManaoBeach ManaoBeach

プラチュアプキーリーカン、タイ空軍の基地の中にあるビーチ

「丘」に関する駅名

โคก [khôok] がつく駅名

    わかりやすいものを2つ紹介します。
  • โคกทราย [khôok saai / コークサーイ]「砂丘」(南本線・パッタルン県)
  • โคกกะเทียม [khôok kàthiam / コークカティアム]「にんにく丘」(北本線・ロップブリー県)
    ทราย [saai] は「砂」、กะเทียม [kàthiam] または กระเทียม [kràthiam] は「にんにく」という意味の単語で、とく使われることばです。

ดอน [dɔɔn] がつく駅名

  • ดอนเมือง [dɔɔn mʉaŋ / ドーンムアン]「町の丘」(北本線・バンコク都)
    これは空港がある地名なのでご存じですね。ただし、เมือง [mʉaŋ] の発音、とくに [ʉ] が難しくてよくタイ人に直されます。
  • ดอนธูป [dɔɔn thûup / ドーントゥープ]「線香丘」(南本線・スラートターニー県)
    お寺で仏像に備える三点セットは、ดอกไม้ ธูป เทียน [dɔ̀ɔkmái thûup thian]「花、線香、ろうそく」と言います。

โนน [noon/ ノーン]、เนิน [nəən/ ヌーン] がつく駅名

  • บ้านโนนผึ้ง [bâan noon phʉ́ŋ / バーンノーンプン]「蜜蜂丘村」(東北本線・シーサケート県)
    บ้าน [bâan] は「家、村」、ผึ้ง [phʉ́ŋ] は「蜜蜂」のことで、頭に น้ำ [nàam/ナーム]「水、液体」をつけて น้ำผึ้ง [nàam phʉ́ŋ] というと「蜂蜜」になります。
  • โนนสูง [noon sŭuŋ / ノーンスーン]「高丘」(東北・ノーンカーイ線・ナコーンラーチャシーマー県)
    สูง [sŭuŋ] は「高度が高い」という意味です。ところがよく似た地名が同じ県内にあって、
  • สูงเนิน [sŭuŋ nəən / スーンヌーン]「丘の高み」(東北本線・ナコーンラーチャシーマー県)
    といいます。しかも両方とも県の下の อำเภอ [ʔamphəə /アムプー] 「郡」という行政単位の名称で、同じ県にノーンスーン郡とスーンヌーン郡があるわけです。ややこしくないのでしょうか。
     なおタイ語の文法的には、被修飾語+修飾語(つまりこの場合だと、名詞+形容詞)の順番ですので、高い丘ならば โนนสูง [noon sŭuŋ](または、เนินสูง [nəən sŭuŋ ])と言うはずです。ただし地名なので、 สูงเนิน [sŭuŋ nəən] もあり得る、または何らかの変遷を経て今に至ると考えればよいでしょう。
     また、 สูงเนิน [sŭuŋ nəən] には、ドヴァーラヴァティー時代(7-10世紀)に遡る古い寺院や都市遺跡、クメール帝国時代(10-12世紀)の石造遺跡が残り、歴史好きには興味のある場所です。

WatThammacak WatThammacak

ワット=タンマチャクの涅槃仏(スーンヌーン สูงเนิน 郡)
7-8世紀、ドヴァーラヴァティー時代のもの
長さ約13.3m、高さ約2.8mで、砂岩のブロックを積んで作り上げた

東北線と南線に多い「山」と「丘」

 「山」「丘」がつく駅の数を、各路線別にまとめたのが次の表です。

      
路 線それぞれの語がつく駅数(割合)
เขา [khău]
「山」
โคก [khôok]
「低い丘」
ดอน [dɔɔn]
「丘、高み」
โนน [noon]
「丘」
เนิน [nəən]
「丘」
北 線2(1.5%)1(0.8%)4(3.1%)0(0%)1(0.8%)
東北線6(3.9%)5(3.3%)1(0.7%)
6(3.9%)
4(2.6%)
南 線
14(5.0%)
4(1.4%)5(1.8%)0(0%)0(0%)
東 線2(2.9%)1(1.4%)1(1.4%)0(0%)0(0%)
メークローン線0(0%)0(0%)1(2.9%)0(0%)0(0%)

 この表を見て気づくのが、เขา [khău]「山」が南線方面に多く、โนน [noon/ ノーン]、เนิน [nəən/ ヌーン]「丘」はほとんどが東北線方面に集中しているということです。また、この5語を含む駅数の合計を路線別で見てみると、東北線が22駅(東北線全体の14.4%)、南線が23駅(同じく、8.3%)と目立ちます。
 東北線は標高150ー200mほどの広大なコーラート(โคราช [Khoorâat])高原を走る路線で、小規模な山や丘がしばしば見受けられます。マレー半島を縦貫する南線は海岸近くを通るのですが、意外にも車窓からは石灰岩のポコポコとした小山が目につきます。
 これに対して、チャオプラヤー平野を走る東線やメークローン線では「山」「丘」のつく駅はぐんと減り、北線も多くが平野を走るせいか、非常に少なくなっています。

 

I AM...

self portrait

1963年、愛知県生まれ。男性
1982年、初めてタイを旅行。以後、50数回(短期のトランジットを除く)タイを訪問
2011年度通訳案内士試験(タイ語)合格【観光庁・国家資格】
2012年、総合旅行業務取扱管理者試験合格【観光庁・国家資格】