タイ語の発音4 有気音と無気音
blog No.006 投稿日:2020.05.31
この記事の内容
日本語ネイティブにとって難しいタイ語の発音、第3回目は有気音と無気音の違いです。k、c、t、p の4つの子音には、息を出して発音する音と、なるべく出さずに発音する音の区別があります。
・鶏か卵か
・「息」を出すか、なるべく出さないか
・緊張をともなう無気音
・無気音を身に着けるためのアドバイス
・過去の関連記事
・今日のことわざ
※以下の文中にはタイ文字が使われていますが、読めなくても全く問題なく理解できます。
タイ語の発音4 有気音と無気音
鶏か卵か
タイへ行ったらぜひ味わいたい「トムヤムクン」 ต้มยำกุ้ง [tôm yam kûŋ] 。でもカタカナ読みでは通じません。そこで、blog003では「声調」、blog004では「母音」について説明してきました。とくに「クン」(海老)の母音 u の発音は、日本語ネイティブにはかなり難しいものです。
今日は次の関門、「クン」 กุ้ง [kûŋ] の最初の子音 k (カ行の音)について見ていきます。この k は「無気音」といって、息をなるべく出さずに発音する音ですが、日本語ネイティブの人は、息を出して kh と「有気音」で言いがちです。( この場合の h はハ行の音を表すのでなく、有気音を示す記号です。k' と書くこともあります。)ちなみに「トムヤムクン」の「トム」 ต้ม [tôm] の t も無気音です。
タイ語では有気音と無気音は全く別の子音として、厳密に区別しています。例えば、
ไข่ [khài](有気音。卵という意味)
ไก่ [kài](無気音。鶏という意味)
日本語では両方とも「カイ」、声調も同じ低声ですが、有気音と無気音の違いだけで全く別の単語になります。
ちなみに有気音と無気音の区別は、タイ語以外にも朝鮮・韓国語、中国語、ビルマ語、インド諸語など広く見られます。日本語にはない区別なので、注意しましょう。
「息」を出すか、なるべく出さないか
冒頭で紹介したように、k(カ行)、c(チャ行)、t(タ行)、p(パ行) の4つの子音について有気音と無気音を区別します。
有気音…息をはっきり出しながら発音する。発音記号:kh, ch, th, ph
無気音…息をなるべく出さないように発音する。発音記号:k, c, t, p
※ c , ch は日本語の「チャ・チュ・チョ」の子音です。例えば [caa] は「チャー(無気音)」と発音します。「カー」「キャー」とは読みません。
有気音と無気音の区別については、手を口の前に置いて、吐く息を感じるように有気音を、なるべく感じないように無気音を発音する、という説明が多いです。確かにその通りなのですが、よりタイ語らしい発音にするための要領を紹介してみようと思います。
緊張をともなう無気音
タイ語ネイティブが発音する無気音をよく聞くと、単に息を出さない音というだけでは説明できない、独特の音が聞こえることがあります。それが何であるのか、最近ようやくわかりかけてきました。一言で言うと「緊張感」です。
例えば、 k の子音(カ行)は、とくに意識して緊張せずに kaa(カー)と発音すると、どうしても息が漏れて、khaa のように有気音になりがちです。無気音で発音するため、つまり息をなるべく出さないようにするためには、 k を発音する瞬間にのどや舌の奥あたりを意識的に緊張させて一瞬だけ息を止め、さらに息を口からなるべく漏らさないよう、むしろ息を鼻に抜くような「感じ」(実際に鼻から息を吐くわけでなく、あくまでも「感じ」です)で発音します。他の無気音 c, t, p についても、緊張する箇所は異なりますが、同じような要領で発音すればよいわけです。この下の表をご覧ください。
一方、有気音は息を出す音なのですが、唾が飛ぶほど頑張る必要はありません。無気音のように緊張せず、リラックスした状態で少しだけ強めに発音するように意識すれば、自然に息をともなう有気音になるはずです。
以上の内容を、簡単に表にまとめてみました。
発音の特徴 | 区別する子音(発音記号) | ||||
---|---|---|---|---|---|
有気音 | 息をともなって発音する リラックスしてやや強めに発音するとよい | kh | ch | th | ph |
無気音 | 息をなるべくともなわずに発音する そのためには、のど、舌、唇などを意識的に緊張させて一瞬だけ息を止め、息を鼻に抜くような「感じ」で発音する | k | c | t | p |
発音する瞬間に意識的に緊張させる場所 | のどや舌の奥あたり | 舌先と舌先が当たる歯の裏側 | 舌先と舌先が当たる上あご | 唇 |
無気音を身に着けるためのアドバイス
以上、私見を含めていろいろ説明してきましたが、何はともあれ無気音には要注意です。
第1ステップ:息をなるべく出さないように気をつけて、無気音を発音します。有気音と区別することを意識してください。ただし、有気音で息を出すことより、無気音で息を出さないことを強く意識しましょう。これができれば、「卵」と「鶏」の区別がつくような、通じるタイ語が話せます。
第2ステップ:無気音のときに少し緊張をともなうことを意識しましょう。慣れないうちは疲れるかもしれませんが、そのうち自然に出せるようになるはずです。そうなれば、タイ語ネイティブの発音にぐっと近づきます。
無気音の聞き取りも難しいかもしれません。発音する人にもよりますが、かなりくぐもった感じに聞こえます。ただし、正しく発音できれば、あるいは無気音の緊張感がわかれば、だんだん聞こえるようになってきます。
なお、無気音 k, c を濁音で「ガ」「ジャ(ヂャ)」などとかな表記してあるのも見かけますが、無気音は濁音ではありません。痰を切るときのように「ガガーッ」と言えば濁音の有気音になります。しかもタイ語には、d (ダ行)、b (バ行)の子音もあるので、t, p の無気音は濁音では書けません。以上の理由から、無気音を濁音で書いたり、濁音で発音するのはやめておきましょう。
タイ語を聞くととても柔らかい感じに聞こえますが、私はこの無気音の発音が大きく影響していると思っています。これに対して中国語(北京語)は、タイ語と比べて有気音は息をより強く出し、無気音は緊張感が乏しく若干息が出る気がします。そのため中国語は、タイ語より語気が強いように感じるのではないでしょうか。
冒頭に紹介した「トムヤムクン」の「クン」กุ้ง [kûŋ] の発音です。無気音 k は息を出さないように、できればのどの奥を少し緊張して発音します。母音の u は唇を突き出して言う「ウ」、声調は下声(高いところから下げる音)です。最後の「ン」は...説明は次回にしましょう。
過去の関連記事
・タイ語の発音1 声調のはなし
・タイ語の発音2 母音のはなし
今日のことわざ
จับปลาสองมือ
[càp plaa sɔ̆ɔŋ mʉʉ / チャプ プラー ソーン ムー]
日本語訳:両手で(別々に)魚を捕らえる
結果は2匹とも逃してしまいました。日本語の「二兎を追うものは一兎をも得ず」と同じ意味です。タイ語ではウサギではなく魚を取り逃がすわけです。
なお、จับ [càp]「つかむ」も、 ปลา [ plaa]「魚」も無気音で発音します。
[ 参考文献 ] 冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』養徳社、1990年