タイ文字講座 STEP3 子音字(2) 発音編
blog No.013 投稿日:2020.08.30
この記事の内容
複雑怪奇に見えて取っ付きにくいけど、どことなくユーモラス。このタイ文字の基本的な読み書きができるようになりましょう。タイ文字の習得はタイ語学習の大きな「ヤマ」です。
前回につづいて子音字を見ていきます。最後に簡単な問題もあります。
・発音別に並べるとすっきり!
・見えてきた子音字の特徴
・注意すべき発音
・同音異字の多さ
・【問題】おもな子音字の発音を確認しましょう
・過去の関連記事
・今日のことわざ
STEP3 子音字(2) 発音編
発音別に並べるとすっきり!
前回のタイ文字講座 STEP2 子音字(1) ก ไก่ (コーカイ) で紹介したように、タイ文字の子音字は英語のアルファベットより多い44文字(廃止済みの文字を除けば42文字)もあって、少々面食らうかもしれません。
しかしよく見ると、発音が全く同じか同じに近い文字が結構多いことに気づくでしょう。また、使用頻度が非常に少ない文字もあります。そこで、発音別の文字の表に使用頻度を加えた【表13】を作ってみました。どうですか? 低頻度の文字を除けば、発音(頭子音)と子音字はほぼ1対1対応になります。これなら覚えやすいですね。
なお、 ก は中子音字、 ข は高子音字を表しています。
頭子音の発音 | 文字 | 末子音の発音*4 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
頭子音 | 有気無気・声調*1 | 発音の説明・要領*2 | 高頻度*3 | 低頻度 | ||
k | 無気音 | カ行 | ก | -k | ||
kh̆ | 有気音 | 上声 | カ行 | ข | (ฃ) | -k |
kh | 有気音 | カ行 | ค | (ฅ) ฆ | -k | |
c | 無気音 | チャ行 | จ | -t | ||
ch̆ | 有気音 | 上声 | チャ行 | ฉ | -- | |
ch | 有気音 | チャ行 | ช | ฌ | -t | |
s̆ | -- | 上声 | サ行 | ส ศ ษ | -t | |
s | -- | サ行 | ซ | -- | ||
d | (無気音) | ダ行 | ด | ฎ | -t | |
t | 無気音 | タ行 | ต | ฏ | -t | |
th̆ | 有気音 | 上声 | タ行 | ถ | ฐ | -t |
th | 有気音 | タ行 | ท ธ | ฑ ฒ | -t | |
b | (無気音) | バ行 | บ | -p | ||
p | 無気音 | パ行 | ป | -p | ||
ph̆ | 有気音 | 上声 | パ行 | ผ | -p | |
ph | 有気音 | パ行 | พ ภ | -p | ||
f̆ | -- | 上声 | ファ行 英語の f と同様に 上の歯で下唇を抑える | ฝ | -- | |
f | -- | ฟ | -- | |||
m | -- | マ行 | ม | -m | ||
ŋ | -- | ガ行に似ている ただし息を鼻に抜く | ง | -ŋ | ||
n | -- | ナ行 | น ณ | -n | ||
r | -- | ラ行 舌を丸めて舌先を震わせる | ร | -n | ||
l | -- | ラ行 舌を前歯の裏に付ける | ล | ฬ | -n | |
y | -- | ヤ行 ただし後に来る母音が i,e,ɛ の時はj(ジャ行)になる | ญ | -n | ||
ย | (-i) | |||||
w | -- | ワ行 | ว | (-u) | ||
h̆ | -- | 上声 | ハ行 ただし喉の奥から息を出す感じ | ห | -- | |
h | -- | ฮ | -- | |||
ʔ | (無気音) | 声門破裂音 喉の奥を絞っていったん 息を止めた後発音する | อ | (-ɔɔ) |
補足説明
1) -- は有気音・無気音の対立がなく、区別の必要がないことを示している。(無気音) は有気音との対立はないものの、理論的には無気音であるという意味である。
2) とくに注意が必要な発音については、次の項目にまとめたので参照されたい。
3) 高頻度の欄に複数の文字がある場合、左がより高頻度に用いられる。また、たとえば ณ は頭子音字としての頻度は低いが、末子音字としては非常に多く用いられるので、高頻度に分類している。
4) 末子音の発音欄の -- は末子音になることがない文字。
この表をダウンロード(PDF,285KB)
見えてきた子音字の特徴
上の【表13】をじっくり眺めると、【表12】(ก ไก่/ コー カイ)の文字一覧表ではわからなったことがいろいろ見えてきます。
頭子音の発音と子音字との関係について
子音字は44(廃字を除けば42)ありますが、頭子音の種類は(上声を区別しないと)21しかありません。(日本語ネイティブにとってとくに注意すべき発音については、次の項目にまとめました。)逆に言うと、同じ発音なのに文字を書き分けなければなりません。しかし、使用頻度の低い文字を除けば、発音と文字は1対1対応に近くなります。高頻度の欄に2文字以上ある場合でも、最も左の文字を使うことが圧倒的に多いので、ほぼ1対1対応といってもいいでしょう。最初から44文字を覚えるのは大変ですので、このように高頻度の文字から覚えていくのも、よい方法だと思います。
文字の3分類(高子音字・中子音字・低子音字)についての規則性
・中子音字は、無気音(いわゆる濁音の[d]ด ฎ、[b]บ、 声門破裂音[ʔ]อ も無気音と考える)と一致します。同じ頭子音の高子音字・低子音字はなく、中子音字単独で存在しています。
・高子音字(文字自体、低い音から尻上がりに上げていく声調の上声を持っている)には、同じ発音で声調を持たない低子音字が必ず存在します。
注意すべき発音
有気音と無気音について
日本語では区別しないため、日本語ネイティブにとって最も難しい発音になります。簡単に言えば、「有気音」は息をはっきり出しながら発音し、「無気音」は息をなるべく出さないように発音します。この2つは厳密に区別しなければなりません。これについての詳しい説明や、無気音の発音の「コツ」については、blog006 タイ語の発音4 有気音と無気音をぜひご覧ください。
頭子音[ŋ]の発音
ガギグ…のガ行[g]ではありません。[g]に似ていますが、息を口から出さず鼻に抜いて発音します。かなりこもった音になります。あえてカナ書きすれば「ンガ」「ンギ」「ング」…となるでしょうか。
声門破裂音[ʔ]の発音
のどの奥を絞っていったん息を止め、その後に次の発音に移ります。楽譜で言うと、8分休符か16分休符が付いているような感じです。例えば、
อ่าน [ʔàan]「読む」
は「ッアーン」のように発音します。
とくに単語の途中で現れる場合には、声門破裂音がよりはっきりします。例えば、
สะอาด [sàʔàat]「清潔な」
は「サアート」と滑らかに言うのではなく、「サッ(8分休符)アート」のように発音します。
頭子音[f]と[h]の区別
[f]は英語と同じように、上の歯で下唇を抑えて発音します。[h]は日本語のハ行音よりものどの奥の方から息を出す感じで発音します。日本語ではこれらを区別せず、たいてい[h]で発音していますので注意が必要です。
頭子音[r]と[l]の区別
[r]は舌を奥へ丸めて舌先を震わせる音です。タイ語ネイティブでも人によって、巻き舌音がはっきり出る人も舌を丸めるだけの人もいます。[l]は英語と同様に舌を前歯の裏に付けて発音します。この2つは日本語では区別しませんが、タイ語では厳密に区別されます。
同音異字の多さ
【表13】でお分かりの通り、同じ発音の文字が多数あるのはなぜでしょうか。それは、サンスクリット・パーリ語の文字に対応するようタイ文字を用意したのですが、タイ語の発音体系だと同じ発音となってしまう場合も多いからです。したがって、サンスクリット・パーリ語起源の語彙にしか使わないため、日常語ではあまり見かけない文字(表の「低頻度文字」)もあります。
この同音異字の多さがタイ文字習得の大きなネックになっています。とくに末子音の同音異字が非常に多く、[-t] にいたってはなんと16文字もあります。逆に言えば、タイ語の子音の発音はそれだけ単純化されているということでもあるのですが。いずれにしろ、文字を見て発音することは容易でも、発音を聞いて文字に書くのはその単語を知らないと不可能だということになります。例えば次の3つの単語を見てください。
1) รด「(水などを)掛ける」 2) รถ「(乗り物の)車」 3) รส「味」
いずれも [rót/ ロット] と発音しますが、末子音の文字が違います。もちろん意味も違うので、きちんと書き分けなくてはなりません。
言文一致が世の流れ、タイ語においても実際の発音に対応するよう文字を整理すべきだという声が聞こえそうです。しかし、パーリ・サンスクリット語の語源は残しておくべきで、それこそがタイの文化だという考えが強く、文字改革の動きは今のところないようです。上の例だと、1)が純タイ語、2)と3)がパーリ・サンスクリット語起源の語になります。
実は、文字改革が実現した過去があるのです。第2次大戦中にタイのナショナリズムを声高に主張したプレーク=ピブーンソンクラーム แปลก พิบูลสงคราม [Plɛ̀ɛk Phíbuun sŏŋkhraam] 首相は、タイ語の「純化」のため、1942年、おもにパーリ・サンスクリット語起源の語彙にしか使わない文字を廃止して、同音異字を大胆に整理しました。しかし同盟国日本が劣勢となり、1944年ピブーン首相が辞任すると、跡を継いだクワン=アパイウォン ควง อภัยวงศ์ [Khwaŋ ʔÀphaiwoŋ] 首相は「タイ文化の伝統を乱すもの」として旧に復し、改革は挫折しました。ちなみに、タイ文字と非常によく似た文字を使う隣国のラオスでは、このような同音異字の廃止を断行しています。覚えるのは楽になったでしょうが、今度は同じスペルの異義語がたくさん現れてしまいました。これはこれで不便ではないでしょうか。
【問題】おもな子音字の発音を確認しましょう
次のタイ文字の子音字は何と読むでしょうか。ヒント:頭子音としての発音に母音 [ɔɔ/オー] をつけて発音します。正しいと思う〇をクリックして、確認ボタンを押してください。
最初は文字の表(【表12】、【表13】など…リンクは別のタブまたはウィンドウが開きます)を見ながら、1つずつ確認していきましょう。
・2)は [ŋɔɔ] と思い切り鼻に抜くガ行です。[gɔɔ] ではありません。
・高子音字は上声の声調(低い音から尻上がりに上げていく)で発音します。廃字を除けば10文字だけ(【表13】で赤色で示した ข ฉ ศ ษ ส ฐ ถ ผ ฝ ห )なので覚えてしまうといいでしょう。
・よく似た文字が多いので注意しましょう。
4) ม と น [nɔɔ]
5) ป と บ [bɔɔ]
6) ผ と ฝ [fɔ̆ɔ] と พ [phɔɔ] と ฟ [fɔɔ]
7) ส と ล [lɔɔ]
8) 9) 10) ต ด ค
11) 12) 13) ข ช ซ
他にも、ภ [phɔɔ] と ถ [thɔ̆ɔ]
などあります。書く時もはっきり区別しましょう。
過去の関連記事
・タイ文字講座 STEP1 タイ文字のしくみ
・タイ文字講座 STEP2 子音字(1) ก ไก่ (コーカイ)
今日のことわざ
ตำน้ำพริกละลายแม่น้ำ
[tam nám phrík lálaai mɛ̂ɛ náam / タム ナム プリック ララーイ メー ナーム]
日本語訳:ナムプリックをついて水に流す
ナムプリックとは、海老みそ(カピ กะปิ [kàpìʔ])、唐辛子、ニンニク、マナオ(มะนาว [mánaau]すだちに似た柑橘類)などを鉢でつぶして作ったペースト状の調味料のことです。野菜や魚、ごはんなどにつけて食べる、タイ料理にはなくてはならない、とっても身近な調味料です。最近では市場やスーパーマーケットでも売っていますが、伝統的には家庭で作るもので、各家庭ごとのレシピと味が受け継がれてきました。日本の味噌みたいなものですね。
せっかく材料を買いそろえ、手間暇をかけてナムプリックをつくっても、川に流してしまっては全くの無駄骨、もったいないです。このことわざの意味は、無駄なことに多額のお金と時間を浪費するということです。
[ 参考文献 ] 冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』養徳社、河部利夫『基礎タイ語』大学書林、1982年、岩城雄次郎・斉藤スワニー『タイ語ことわざ用法辞典』大学書林、1998年